
先日、友人に誘われて、
久しぶりに海へ行きました。
そのとき出会った出来事が、
思いがけず私の心に静かな余韻を残してくれたのです。
その日は、富士山が驚くほどくっきりと姿を見せてくれていました。
砂浜にシートを広げ、素足になって、
友人が用意してくれたパンとお茶でゆっくりとランチ。
半分に分けてくれたパンを、
友人の手から受け取ったその瞬間でした。
耳元で、風を切る音。
次の瞬間、私の手の中からパンが消えていました。
いったい何が起こったのかわからず、しばし呆然としました。
トンビって、本当にすごい。
友人と私の距離は、ほんの50センチほど。
そのわずかな空間をすり抜けながら、
狙ったものを確実にさらっていく。
思わず見惚れてしまうほどの、無駄のない動き。
ただ「見事」としか言いようがありませんでした。
すごいなあ、と。
そしてふと、思ったのです。
私も、あんなふうに在れたらいいな、と。
その見事な動きを眺めながら、
ふと、ある人の姿が重なりました。
私の歌唱療法の先生は、若い頃に喘息を患っていて、
ヴェルベック女史のもとへ3年間通われたそうです。
その経験が、彼女を歌唱療法士へと導きました。
普段の先生は、いつもやわらかな笑顔をたたえた方でした。
けれど、セッションになると、その表情はすっと変わります。
淀みのない、澄みきった眼差しで、
ただ一点、本質だけを見つめているような姿。
今日出会ったトンビの姿が、
その先生の姿と、静かに重なりました。
迷いなく、ためらいなく、
必要なものを、必要な瞬間に捉える。
そんな在り方に、私は惹かれています。
そしてきっとそれは、
誰の中にも眠っている力なのだと思うのです。
ふとした瞬間に姿を見せる、迷いのないまなざし。
それは自分の内側に息づいている叡智なのかもしれません。
今日のトンビのように、
必要な瞬間に、必要なものを捉える力。
その気配を、あなたも感じたことがあるはずです。
アトリエ・カンテレ 平井久仁子
