私は結婚前と結婚後に渡って、大学の研究室で秘書の仕事をしていたことがあります。教授の退官と共にその仕事を止めましたが、合計8年間そこで働きました。
大学の近くに自然食の定食屋さんがあって、お昼はそこへよく出かけていました。お店は女性が一人で切り盛りされていました。
カウンターにお茶の入った大きなポットと湯飲み茶わんが用意されていて、お客さんはそこからお茶を汲んで席に着きます。
店主が忙しく調理中だと注文をしばらくほっとかれることもあって、それが我慢できないお客さんは帰ってしまうこともありました。お客さんペースではなく、自分のペースで仕事をする人でした。
世間の常識とは大きく違っているやり方でしたが、提供されるお料理は、なにしろ美味しかったのです。
私は段々と店主と話をするようになり、仕事が終わってから晩御飯を食べに行くようにもなりました。
研究熱心で自家製酵母でのパン焼きを何度も繰り返して、そのうちにお店で売るようにもなりました。
ある日、私はパンの作り方を一緒にやって教えてくれないかと頼みました。すると「安易に教えてもらおうとしないで、自分でやってみたらいいよ」と彼女に断られてしまいました。
彼女がレーズンで起した酵母を分けてもらい、家に帰ってから作ってみました。何回か作ってみましたが、全然膨らまずに、石のようなパンができあがってしまいました。
お店にそのパンを持って行き、そして見てもらいました。そうしたら、彼女は私がどんなふうに作ったか詳しく聞いてくれて、ここはこうしたらいいよ、それから、このくらいになるまで待った方がいいよと色々なアドバイスをくれました。
私はまた家に帰ってからパンを焼きました。今度はこの間のよりは少しパンらしくなりました。そして、また彼女の所へ持って行きました。
この繰り返しを何度行った事か!
パンが焼けるようになるまでに、時間がめちゃくちゃ掛かりましたが、最初に彼女が手取り足取り教えてくれていたら、自分で考えたり、工夫することを覚えなかったと思います。
この経験があってから、受け身でいることよりも、自分から学ぶことを教えてもらいました。
アトリエ・カンテレのレッスンでもこれを大切にしています。学ぶ人がどれだけ積極的に学べるかによって、与えられたもの以上の学びをすることができると思います。
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