シンギングセラピスト(歌唱療法士)平井久仁子です。
私が日々皆さんとレッスンしている「アンカヴァーリング・ザ・ヴォイス歌唱法」は、綺麗に、上手に歌う事だけを最も重要な目標にしていません。
自分に掛けられている覆いを一枚、一枚、丁寧に除いていった先に、その結果として美しい声が現れ出る歌唱法です。
一般のボイストレーニングや歌唱レッスンとの違いは、何でしょうか?
同じ歌う事を扱っていますが、アプローチの仕方が全く違うのです。
歌っている人間をどのような存在として認識しているかの違いであると思います。
一般のレッスンでは、今現在の足りないもの、不足しているものにフォーカスして、それを外から補って、歌えるようにするという考えです。
そして、もう一つの特徴として、人間を物質的な物として扱っています。
フイゴのように、空気の出し入れをコントロールして、声帯を震わせれば声が出るといったような、まるで機械のように歌う人を扱っています。
それは、曲のダイナミクスを歌う時にも表れていて、forte(フォルテ)で歌う時は大量の空気を押し出して歌い、piano(ピアノ)で歌う時は、少ない空気で歌うというように、音量を調整します。
あなたも上記と同じことを考えて、実際に歌う時に、同じことをしていませんか?
アンカヴァーリング・ザ・ヴォイスでは違います。
フォルテで歌う時も、ピアノで歌う時も、空気の量は同じです。
どうしてそんなことができるの?と思いますよね。それは体全体がよく響く楽器のようになるからなんです。
余分な力を抜いて、余計なことをしているのを止めて、ああなりたい、こうしたいという自分のエゴで考えた算段を止めて、やってくる響きの邪魔をしないように、ひたすら響きの導管として自分を明け渡します。
そうして自分の身体が響きに満たされて鳴り始めると、自分の周りの空気も共鳴して同時に響き始めるのです。
アンカヴァーリング・ザ・ヴォイス歌唱法の生みの親であるヴェルベックは、
「人間の声自体は、決して病まない。
いつも健全な響きを湛えている。
人間の声には不十分なことなどないのだから、
外から何かを補って、作り変える必要がない。」
と云いました。
彼女の言葉の真理を私はいつもレッスン中に、生徒さんの声からその通りだなあと教えてもらっています。
今日はその中の御一人をご紹介します。
その方には肺の疾患があり、呼吸がスムーズに行えませんでした。
ひとつエクササイズを終えると、呼吸を整えてから、また次のエクササイズに進むという具合でした。歌うには難しいコンディションです。
「レッスンをしてみたいのですが、こんな呼吸でも歌えますか?」とその方から問い合わせがあった時、
私は、「歌いたいという気持ちさえあれば十分です。無理のないエクササイズを考えますから、安心してください」とお返事しました。
他の所ではレッスンを断られたということで、大変喜ばれました。
腹式呼吸をはじめ、身体に無理な力をいれて歌う事を指導される歌い方では、この方の場合は、そのようなレッスンに耐える事ができませんし、余計に症状を悪化させてしまいます。
それから、毎週その方はレッスンにいらっしゃいました。
そしてある時、その人の声から現れ出た響きが、それはそれは美しくて、私は鳥肌がたちました。
私のつま先からお腹へ向かって、そして、指先から胸に向かって、サワサワとした感覚が広がっていきました。
その人の声のバイブレーションが広がっていくのと同じように、サワサワ、サワサワしたさざめきは、幾重にも広がる波のように、私の肌を撫でてゆき、それは体の内部にまで浸透していって、私の魂を揺らしました。
その人のとても純粋な、そして崇高な声の響きに震えました。
お顔を見ると、光に包まれているように明るくて、神々しいのです。
本人も歌い終わった後に、気が付かれました。
「今の声は私の声なんですよね。自分の声にもこんな声があるんだと、初めて聞きました。でも、確かに自分で声を出している事は分かっているんだけれど、まったく自分で歌っている感じがしないんです。なんかまるで、自分の声が空の上の方から降ってくるみたいに感じて。不思議な気分です。自分のこんな声を聞いたら、もっと歌いたくなりました。」
どんな状況に置かれた人の中にも、その人の本来の声の響きはちゃんと存在しています。
私はその響きが現れ出るように、ひたすら歌っている人の声に耳を傾けて、それを引き出すお手伝いをしています。
それは私にとっても至福の時間です。だって、すぐ隣で、魂の声を聞けるのですから。
自分本来の声を取り戻した人は、その声を誇りに思います。
今まで気が付かなかった自分の声を再発見して、また新たな人生のページを開いて生きて行かれます。
あなたにも、あなたらしい声の響きがあることを忘れないでください。
そして、それを見つけることができますように。
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