4月16日の講座の前にピアノの調律をお願いしました。もう10年以上同じ調律師さんにお願いしています。
私は調律中の音色を聞いているのが大好きです。クラッシックのコンサートに行くと、オーケストラが本番が始まる前に、それぞれの楽器がそれぞれに調律している場面に出くわしますが、あの音を聞いて、わくわくする時の感覚に似ています。
彼はつい最近まで、遠くは神戸まで調律に行かれていたということで、彼の確かな技術を必要としている人は大勢いらっしゃるのだと思います。
私はご近所というご縁に恵まれて、そのことにとても感謝しています。
アトリエ・カンテレでもコンサートや講座がある度に、調律をお願いしていますが、彼は「歌だけのコンサートですか?」とか、「他の楽器との演奏はありますか?」とこちらの要望を聞いて下さって、調律を行ってくれます。
そして、調律に関することのお話しと、音楽に関するお話をお聞きできるのも、私の楽しみになっています。お仕事の邪魔をしないように、途中は話しかける事を控えていますが、終わった後にお茶をお出しして、色々と聞かせて頂いています。
昨今の調律師さんの中には、自分の耳より音の周波数を計る機械を頼りにして、一番低い音から一番高い音まで一律に同じ440Hzのピッチで調律してしまう方もいて、どうもそれだと、響きが平面的になって美しくないと彼は言います。だから、殆ど弾かれる機会がない、最低音部と最高音部にかけて少しずつピッチを微妙に変えているそうです。
卓越した知識と精巧な技術もありながら、響きに対する芸術的なセンスも兼ね備えた調律師さんです。
アトリエ・カンテレのピアノの音色を評価してくださる方が多いのですが、彼のような調律師さんに支えられているお陰です。
「最近体が思うように動かなくなってきた」と調律師さんはおっしゃいますが、いつまでも現役でアトリエ・カンテレのピアノの面倒を見て頂きたいと思います。
アトリエ・カンテレのピアノはヤマハ製で、私が幼稚園の頃から使っています。もうかれこれ、40年くらい経っています。
この頃製造されたヤマハのピアノはまだ大量生産される以前だったため、木材等良いものが使われていたそうです。
両親がピアノを買ってくれて、当時20歳代で商売を営んでいた両親にとっては高価な出費だったと思います。
私はピアノを習い始めましたが、教えてくれる先生は怖いばかりで、いつしかピアノを弾くことが嫌になってしまいました。
でもピアノを手放す気持ちはありませんでした。結婚の時は遠く石川県へ一緒に行き、また東京へ越してくるときには、また一緒に来ました。
子どもだった時に弾いて覚えていた曲を時々ぽろん、ぽろんと弾いていただけでしたが、それでもピアノを手放そうとは思いませんでした。
今になって思えば、本当に手放さないでよかったなと思います。その時はまさか私が歌を教えるなんて考えてもみなかったのです。それが今では歌を教えていて、ピアノはなくてはならないものだからです。
私を良く知っている人達、家族や夫、中学、高校、大学の友人達、職場の同僚たちですら、今の私のやっている事を聞いたら、想像すらできないと思います。それくらい私は歌とも音楽とも接点がない暮らしをしていたのです。
第一、本人が一番驚いています。人って面白いなと、他人のように驚いています。
でも、この記事でもお伝えしたように、
もうすでに過去には、今こうなっている伏線が張られていたのだと思います。
だから私は弾く機会が殆ど無くなったにも関わらず、ピアノを手放すことはなかったのだと、今になってわかります。
そして、その他にも様々な伏線は張られていたのでした。その時には気が付かなかったとしても。そして、何の脈絡がないと思っていることも、緻密な糸で複雑な織物のように織られていたのです。
中学生から大学卒業まで、私は茶道と華道を習っていたのですが、社会人になってからは一切止めてしまいました。今は全く行っていないので、何の役にもたっていないと思っていたのですが、最近になってその時に使っていた感覚が歌を学ぶうえで役にたっていること、そして歌を教える時にも役にたっていることに気が付きました。
神経を研ぎ澄ませてお茶を点てる時の感覚。自分の五感をフル活動させてお茶を点てていました。
お花を生ける時も、どこが花の正面なのか、そしてどう活けて欲しいと花は望んでいるのかを感じる事。
皆さんも、ご自分が過去にやっていたことが、今現在に役にたっています。過去の経験のエッセンスを思い出してみてください。その経験を通して、あなたが得たものとは何だったでしょうか?
そして、それが今生かされているとしたら、何をやっているときに役にたっていますか?
きっと思い当たることがあると思います。
だから無駄なことはひとつもありません。今現在やられていることにも、無駄なことなどないのですから、心を込めて思いっきりやってください。
大切なのは、あなたに今起こっている事は、のちの未来に続く最善だということを信頼できること。
精巧で美しいタペストリーが織り上がっていきます。
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