(2016年のフェイスブックページの記事を加筆して、掲載しました。)
私が歌の勉強をした学校はフィンランドの
南ポホヤンマー州イルマヨキ市ポヤンルオマにあります。
学校名はラウルコウル(Laulu Koulu)。
フィンランド語で歌(ラウル)の学校(コウル)です。
イルマヨキ市以外の地域で、
「どこの学校に行っているの?」なんて聞かれて、
「ラウルコウルに行っているのよ」と答えると、
決まって学校の名前は?と聞き返されます。
歌の学校というのが学校の名前なんて
普通は思いませんよね。
でも、イルマヨキ市では大体の人が
ラウルコウルの存在を知っています。
それは何故かというと、
こんな田舎の町に日本人が歌の勉強に来ているなんて、
いったいどんな学校なの?と地元の人には不思議がられて、
新聞社から取材を何回か受けたからです。
そのお蔭で、
私はイルマヨキの町で買い物をしていると、
お店の人から、「新聞に載っていたラウルコウルの学生さんでしょ」
と声を掛けられるようになりました。
これでは、おちおち変なこともできません。
イルマヨキは大きな町ではありません。
鉄道の駅もありません。
住民票などの公的な手続き、
免許の更新などは全て隣のセイナヨキ市へ行かなくてはなりません。
ラウルコウルからは30キロほど離れています。
イルマヨキの中心街へは15キロ程の距離があります。
学校の周りは森と畑。
時間をつぶすことができるような
ショッピングモールなどは一切ありません。
村に一軒だけあった商店も無くなってしまいました。
どこまでも平地が続いていて、
大きな空が広がっています。
私は散歩をするのが日課になりました。
だいたいは授業後の午後4時ごろから歩き始めます。
畑の真ん中の道を進んで、
森を抜けて左の方へ進んで行くと住宅地に出ます。
木造のオーソドックスなフィンランド建築の家や
モダンな煉瓦作りの家などが道の両側に30件ほど並んでいます。
庭で遊ぶ子供たちの姿も見えます。
私が手を振ると恥ずかしそうに手を振りかえしてくれます。
この村に来た最初の頃は、
子供たちは私の姿を発見すると、
物陰に隠れてじっと見つめていました。
Moi!(こんにちは!)と私が挨拶をすると、
家の中へ逃げ走って行く子供もいました。
でも挨拶を繰り返しているうちに、
段々と挨拶を返してくれるようになりました。
そして、誰にも会いたくない日は
学校の裏手にある森へ行きます。
足の向くまま森の中を彷徨い歩きます。
針葉樹林に覆われた森は足元がふかふかで、
いくら歩いても疲れません。
この森には、夏にはブルーベリーを
そして、秋にはキノコを摘みに行きます。
体重が300キロを超えるような大きな動物、
ヘラジカに会った事もあります。
実際にこの森に熊が住んでいるのか
定かではありませんが、
でも、会わないように、
私はここに居るよと、
歌いながら歩いていました。
それがお互いの幸せの為です!
たまに森の入り口に猫がいて、
私の散歩の相手をしてくれました。
真丸くて、真っ白な毛並みから
私はゆきちゃんと呼んでいました。
人懐こいので、たぶん近所で飼われている猫だと思います。
きっとネズミを捕る為に飼われているのでしょう。
フィンランドの農村に暮らしている猫は、
人間と同じく逞しい姿をしています。
「こっちだよ!」と道案内をしてくれるように、
私の1m程先を歩いて、そして、たまに振り返って、
私を待っていてくれます。
私が追いつくと、
私の足の周りをくるっと回って、
しっぽをピンと立てて、
また、とことこと先導してくれます。
ゆきちゃんには、とても慰められました。
素敵な森の散歩の同伴者でした。