私が今回訪れた場所、ムテニヤは40年くらい前までは人が住んでいました。二つの川を一緒にして、人工の湖を作る計画が持ち上がってから、人々は他の土地へ移って行きました。
今では4件の家が建っているだけで、昔の集落跡は湖の底に沈んでいます。その湖を作った電力会社がその後、湖の水質調査や生態、環境調査をしています。そして、かつての集落の家を会社の保養所として管理しています。
私たちの発掘の作業を指導してくれた考古学者は、去年この場所を訪れた時に、不自然な起伏があることに気が付きました。そして、その場所の土を掘り起こしてみると石がたくさん出てきました。
実際に私たちの発掘によって、動物の骨、水晶、セラミック、錫製のボタン、釘、ガラスの破片などが見つかりました。
1メートル四方ごとに番号が書かれた杭を地面に打ち込みます。そして、その場所から発掘したものは、その番号が書かれたビニール袋の中に入れます。そうすれば、どこの場所から発掘されたか一目瞭然でわかります。
漆喰などを塗るときに使う道具、鏝で少しずつ注意しながら地面と平行に土を削っていきます。手のひら以上の大きな石は囲炉の跡だったり、小屋の土台だった可能性もあるので、石の位置を動かさないように鏝の先の尖った部分を使って、石の周りにある土を削っていきます。
削った土は全てバケツの中に集めます。目で確認できないくらいの小さな物が土の中に隠れているかもしれないので、その土もふるいにかけます。
そうやって発掘された物を今度は水で洗います。土の汚れを注意しながら歯ブラシで落としていきます。そして台の上に広げて自然乾燥させます。
考古学者が言うには、動物の骨は千年くらいの前の物、そして、ガラスやボタンなどの生活用品は百年前くらいの物だそうです。きっと今回の発掘作業がレポートにまとめられると思うので、楽しみにしています。
発掘作業はだいたい午前10時から始まり、午後の5時過ぎに終わりました。その間、お昼休みを挟んで、それぞれ30分程のコーヒーブレイクがありました。
作業は各自の自主性に任せられていて、強制はありません。ですから、自分のペースに合わせて、みんなとおしゃべりしながらのんびりと進められました。
一日の仕事の後には、毎日サウナに入って汚れを落としました。ここには電気と水道の設備がありません。冷蔵庫はガスで動いていました。
ラップランドは夏の間、一日中太陽が沈みません。ですから、夜でもランプを必要としないのですが、冬はやはりガス灯が使われるそうです。
台所で料理に使う水と、食器を洗う水も外にある井戸から水を汲みあげて大きな桶に溜めて使います。蛇口をひねれば、お水もお湯も自在に出てくる生活に慣れている私は驚きました。
限られた期間での生活なので、それを楽しむことができましたが、以前ここで生活していた人々のことを思うと、大変な暮らしだったのだと想像します。40キロ先にしか現在も食料品店は無いので、その当時はきっと魚を採ったり、森で狩りをしたり、野菜を栽培したりして自給自足の生活をしていたのだと思います。
サウナに入った後は、みんなで玄関のポーチに座って、お酒を飲んだり、魚の燻製を食べたりしながら、夜遅くまでおしゃべりが続きました。
ここでは、自然が作り出す音しか聞こえません。人工的な音が一切しないのです。鳥の声、虫の声、風がゆらす木々の音、湖の小波の音、雷、雨音。私の部屋にあった目覚まし時計の秒を刻む音が耳障りに聞こえてきて、電池を抜いてしまいました。
草原に腰を下ろせば、周りが360度見渡せることができるので、一刻、一刻移り行く自然の描写を楽しみました。東の空は真っ黒い雨雲で覆いつくされて、空から雨が降り注いでいる様子が見え、同時に西の空には太陽が輝いているのが見ることができます。
空の色や、湖の色、遠くに見える山肌の色も時間によって色が変わります。そんな自然の風景を見ていると、全くテレビなど必要ありませんでした。実際に、テレビはありませんでしたが。
休み時間や、作業が終わった自由時間に湖畔の散策も楽しみました。よく注意して見ると、浜辺で水晶が見つかるのです。
初めて水晶らしきものを拾った時、それが本物か分からなかったので、考古学者の彼に見せました。すると、それは正真正銘の水晶でした。でも残念ながら、それは彼に没収されてしまいました。ここで採取したものは、全て博物館へ行くことになるのです。
ラップランドへの旅で、私はまたフィンランドが好きになりました。今度は一日中太陽が昇らない黒夜の冬の時期に訪ねてみたくなりました。