アトリエ・カンテレでのセッションのご感想をインタビュー記事としてご紹介させて頂きます。インタビュー、および文章はライターの小澤仁美さんにお願いしました。
鈴木養子様
2022年の春より「School of Uncovering the Voice覆いが取り払われた声の学校」の第1期を受講。ベートーヴェンの第九を歌うことをライフワークにされている。
鈴木さんとアトリエカンテレとの出会いを教えてください。
「2018年に第九と出会いまして、もっと歌えるようになりたいという想いがありました。私の声はたまに響く時はあるのですがどこか不安定というか、もっと安定した声で歌えたらいいなというところから、2022年の初旬に基礎講座入門編を受けました。
『人の声は生まれながらにして美しく完全である』という指針に基づいた講座の内容ももちろん良かったのですが、平井先生の雰囲気がとても柔らかくナチュラルで、この先生から教わってみたいなと思ったのが大きかったです」
School of Uncovering the Voice覆いが取り払われた声の学校で、どんな変化がありましたか。
「一番大きいのは、耳を育ててもらったことで自分の世界が広がったことです。例えば音楽ひとつにしても、音が鳴る瞬間には張り詰めた奏者の息づかいがあり、音が鳴った後も振動や余韻といった、楽譜上には存在しないけど確かに響いている音があります。
講座に通う内に、だんだんそうした音が聴こえるようになり『自分が聞いているのは、世界のほんの一部なんだ』と思うようになりました。目に見えるものの奥にある音を聴こうとするようになり、それにつれて日常を彩るものが鮮やかになっていったように思います。
例えば苦手な人と会ったときも『この人の心の奥には、きっと何か背景がある』と捉えるようになり、ジャッジして排除することがなくなりました。それは他人に対してもそうですが、自分自身に対しても『許容する』ことをUncovering the Voiceの学びは助けてくれたように思います」
この学校では、どんなことを学ぶのでしょうか。
「具体的には母音のワーク・子音のワークがあり、実際に声を出してそれぞれの音の響きの違いや拡がり方を感じたり、発音・発語しにくいところの舌の動きについてアドバイスいただけたり、どの音がカラダのどこと関連しているか、どの音が宇宙のどの惑星と関連しているかなど、音についても多角的に多くを学ぶことが出来ました。とても興味深く面白かったです。
ワークを通して身体の詰まっている感じや伸び・気持ちよさを感じたり、今ココの自分のコンディションを感じることで、音の拡がりを感じながら空間と一体化していく感覚、イメージを使って感覚がどんどん拡張していった体験が、特に印象に残っています」
1年間の学びの中で、忘れられない瞬間というのはありましたか。
「講座では1年間、6名の参加者さんたちと先生とご一緒しました。Uncovering the Voiceでは『大切な場所や好きだった遊びを振り返る』という声以外のワークがあるのですが、メンバーの方お一人お一人のお話を聴くたびに心が震え、それぞれの方への慈しみが深まっていくのを感じていました。
オンラインでの講座が修了した後、平井先生のアトリエで1期生の皆さんとリアルでお会いする機会があり、部屋を歩きながら歌うというワークをやったのですが、自分の響きとつながりながら皆さんの響きとつながっているのを感じた瞬間、神聖な想いが溢れてくるのを感じました。
『人の声は生まれながらにして美しく完全である』というUncovering the Voiceでの学びが私の幹だとすると、学びの旅をご一緒した方々とつながりを真に感じたことは私の枝葉になっています。
人の話を聴くとは、その人を受け取ること。そう思いながら聴くことで、人との関わりは自然に変わってくる。1期の皆さんの源とつながった、あの何か神々しいものとつながった瞬間のことは、その後の日常にもつながっている、私の大事な宝物です」
鈴木さんがその時つながった源・神々しいものとは、何だったのでしょうか。
「何もがんばらなくていい状態というか『私はここにいる』、ただそれだけを許可している世界のような気がします。
生産的でなくてもいい、何もしなくてもOKとしているような。そしてその状態は特別なものではなく、自分の一部であり共に一体化しているもの。皆さんと声でつながった時に心が震えたのは、それを体感覚で思い出せたからなのかもしれません。
昔から他人と関わる中で、暗黙のルールを言葉にせずに理解しなければいけないことが苦手でした。日々生きる中で場の空気を読むことにエネルギーの大半を使ってしまって苦しかったこともありました。
だからこそ皆さんの源と声を通してつながれた時、まるで世界の全てから祝福されているような、全ての命が喜んでいる、静かで深い次元を超えた喜びに包まれたのだと思います」
この感覚を掴まれた鈴木さんは、これからどんなビジョンを思い浮かべてらっしゃいますか。
「せっかく声の学びを深めたので、これからは本や詩の朗読をやってみたいです。そして第九はライフワークなのでこれからも続けていきます。第九は祈り、世界平和への祈りなので」
最後に鈴木さんにとって、平井先生はどんな存在ですか。
「お会いすると本当の自分に還れるような存在で、プラスもマイナスもなくただ一緒にいてくださるのがありがたかったです。自分が自然体でいることで周りにいる人も自然体になっていくということを、言葉以外のものでもたくさん教えて頂きました。先生と出会えたこと、引き合わせて頂いたことに今でも感謝しています。
先生によって源とつながれる生徒さんがこれからもたくさんいらっしゃるんだろうなと想像するだけで、私も幸せな気持ちになります。声の学びを通して自分自身を、目の前の人を、この世界をゆるせた。大切なことを思い出せた、という方が増えたらいいなと願っています」
舞台の神様は、心の純度が高いクリアな人を選ぶという。光るガラスのような透明の煌めきを放つ鈴木さんは「人類最高の芸術作品」「音楽のエベレスト」と呼ばれるベートーヴェンの第九を歌うために生まれてきた人なのかもしれない。声の学びから始まった鈴木さんの心の旅路は、これまでもこれからも、歓喜の歌声と共に歩き続けていく。
平井久仁子から鈴木養子さんとのこと
歌っている時にどんな身体の感覚を感じたかをお聞きしているのですが、私はいつも養子さんの繊細な感覚に驚いています。
養子さんは正に見えているもの、聞こえている音だけではなくて、その奥にあるものを大切にされて今までも生きてこられた方なのだと思います。
そして、この世界で見過ごされてしまっているものや、かき消されてしまう小さな声にも養子さんのあたたかな眼差しが向けられて、そこに愛をそそぐ人です。
養子さんの歌う平和の祈りの歌は、愛のうたでもあります。
アントロポゾフィー歌唱療法士 平井久仁子