さあこれから新しい曲の練習を始めようとするとき、どのように最初の練習を始めますか?
まずメロディーはどんな風に進行してくのだろう?と確認してから、
次は歌詞を歌いながら練習していく。それが一般的な歌の練習方法だと思います。
新しい曲は歌うのが嬉しくて、早く歌詞付きで歌いたいですよね。
でも、ちょっと待ってください!
今日は、私がレッスンで教えている練習方法をお伝えします。その方法で練習をすると、響きもたっぷりとありながら、歌詞としての言語音もしっかり聞こえるように歌う事ができます。
豊かな響きと、はっきり聞こえる言語音をどちらも可能にすることは、言うのは簡単ですが、実際に行うとすると、とても難しい事です。
何故って、相反していることを同時に可能にするのですから!響きを豊かにする方に重点を置いてしまうと、言語音は聞き取れなくなりますし、言語音の方を優先してしまうと、響きが乏しくなります。皆さんも悩んだ経験がありませんか?
歌詞が何を言っているのか全く聞き取れないと言われてしまったり、声の響きが足りないと言われてしまったりといった経験はありませんか?
でも、この相反する二つのものをどちらも損なうことなく可能にする練習方法があるのです。
響きの練習と言語音の練習を分けて行う
まず、皆さんに質問ですが、響きとはいったい何だと思われますか?声が鳴るところに付随しているものでしょうか?
だとすると、言葉の音=響きでしょうか?
アンカヴァーリング・ザ・ヴォイス歌唱法の生みの親、ヴェルベックは響きと音(ここでは言葉の音のこと)は別の物と考えていました。響きと音を同一のものと考えず、お互いが別の世界に住んでいる物と考えていたのです。
これにはトリックがあるのですが、響きは響きだけでは耳に聞こえるものとして現れ出てきません。音が無ければ響きは表現しないのです。
それゆえに、人間は音と響きを同一のものとみなしてしまうのです。ですから、言語音をきちんと形成すればしただけの響きが現れ出ます。
言語音は響きを満たす器であると考えてみてください。そして、響きを器の中に注ぎ入れる水と考えてみます。
もしも、ヒビが入っている器の中へ水を灌いだら、ヒビの間から水はこぼれて、器に水が満ちることはありません。
または、綺麗な丸い形の器になるはずなのに、出来上がった器がでこぼこと歪んでいたら、中に入る水も丸い形に収まらずに、でこぼこな歪んだ形になります。
だから、言語音をどのように作るかによって、現れ出る響きも変わってくるのです。
曲の練習をする時には、響きの練習と言語音の練習を分けて行います。そして、言語音の練習よりも響きの練習を最初に行います。
歌はやはり響きが重要であるからという理由と、喉を使えば容易に発音しやすい言語音を響きのポイントに留め置く、または、引き上げなければならないからです。
それには、響きのポイントを確かなものにしておかなければなりません。それができないうちは、たちまちに言語音は喉の辺りに引き下げられて、平坦な言語の音の響きのみになってしまいます。
「響き」も「言語音」も同じ口腔内で作られます。同じ場所で二つの異なるものが同時に作られるのですから、きちんと分けなければ混乱して、大型連休のような大渋滞を起こします。
では、さっそく響きの練習についてお伝えします。
響きの練習
①ng音で歌う練習
先程、響きはそれだけでは聞こえないとお話しました。それで、ここではngの音を使います。
ngの音は他の子音とは違って、鼻に響く鼻濁音です。響く場所が声帯から離れて、頭の内側の鼻の付け根周辺で響きます。
このng音で、メロディーを歌う練習をしてください。響いている場所をよく意識して、いつも同じ所で響きを保ちながら、上がったり、下がったりするメロディーを滑らかに歌う練習です。
その時、顎など余分な力を抜いて歌えるようにしてみてください。
②母音で歌う練習
ng音で歌えるようになったら、次は母音で歌う練習です。
歌詞の中から母音だけを抜き取ってメロディーに合わせて歌います。
例えば、「Gloria」という歌詞の場合、母音は o i a になります。日本語の歌詞の場合、「さくら」という歌詞の場合は、a u a となります。
この時の注意点は、それぞれの母音の響きの質を揃えて歌う事。歌いやすい母音と歌いにくい母音があると思います。または、低音部はいいのだけれども、高音部になると I の母音が歌いにくい等、練習していると出てくると思います。
曲の始めから、終わりまでを母音で歌い、歌い終わったら、粒が揃った真珠のネックレスが出来上がっているように歌ってみてください。
形も色の輝きも、大きさも揃っている真珠のネックレスです。
言語音の練習
言語音の練習は、メロディーから離れて、スケールを用いて練習をします。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドのスケールに、歌詞を当てはめて歌います。この時に言葉を形成するために必要な器官(舌、唇、顎など)をしっかりと働かして、完璧な言語音を形成する練習を行います。
舌は顎の動きに邪魔されずに柔らかく動いているか、または、舌が最適な動きをしないために、唇を過度に動かして言語音を形成していないかなどを確認します。
響きを満たす器としての言語音の形成の練習です。ここでしっかりと練習すれば、豊かな響きが現れでるようになります。
そして忘れてはならないの事がもうひとつ、子音を拍の前に発音することです。拍の所に母音が鳴るように、子音は少し早めに歌い始めます。
拍の所に子音を鳴らしてしまうと、子音は母音に比べると響きが少ないので、どんどん固く、重くなってしまうのです。
メロディーに歌詞をのせて歌う
ここまで練習ができたら、やっとお待ちかねのメロディーに歌詞をのせて歌う事ができます。そして、ここでも拍の所には母音が鳴るように、子音を早めに歌い始めましょう。
くれぐれも拍の所に子音を鳴らさないように、そうしてしまうと拍が強調されて、行進曲を歌っているみたいになってしまいます。
響き豊かな母音に助けてもらって、子音を軽やかに響かせましょう。
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