アトリエ・カンテレでのセッションのご感想をインタビュー記事としてご紹介させて頂きます。インタビュー、および文章はライターの小澤仁美さんにお願いしました。
亀山幸子様 声楽人
「School of Uncovering the Voice 覆いが取り払われた声の学校」コース第一期生。「声に掛けられた覆いを外すレッスン」を3年間受講中。
⻲⼭さんが平井久仁⼦さんを知ったきっかけ、Uncovering the voiceを学ぼうと思われたきっかけについて教えてください。
「娘がシュタイナー教育の学校に通っていた時、その学校で平井先生が主宰していたワークショップに参加したのが最初の出会いです。元々声に興味があり、当時は声楽のレッスンを受けていて、その後は音楽大学の社会人・声楽コースに進学しました。
音大卒業後、幼稚園で歌うボランティアをしていたとき『声楽の発声は大きな舞台で歌うためのもので、赤ちゃんや小さいお子さんがいるところで歌うときは、もっとふさわしい歌い方があるのでは』と感じ、試行錯誤していました。
そのときふと平井先生の Uncovering the voiceのことを思い出して『もっと自分の歌を幅広いものにしたい』と、2020年の春から対面での個人レッスンと、オンラインでのグループでの学びに参加しました」
個⼈レッスンと声の学校でのグループでの学びは、どんな違いがありましたか。
「個人レッスンはその時の自分に必要なエクササイズを先生が教えて下さること、自分のペースでじっくり感じながら進められることが良いと思います。グループで学ぶのはコースが始まるまでは心配もあったのですが、やってみると皆それぞれ感じ方や表現が違って、仲間と学ぶ楽しさ・豊かさがありました。グループでは学びの質を大きく広げられるところ、個人では学びの層を深められるところ、両方にそれぞれ良さがありました」
⾳⼤での声楽の学びと、Uncovering the voice との学びの違いは何でしたか?
「音大の声楽はイタリア歌曲やドイツ歌曲、オペラなどの曲を歌えるようになることがゴールです。それに対してUncovering the voiceでは、声そのものに取り組むところが特徴だと思います。歌を歌うため・曲を仕上げるため・素晴らしい歌手になるためではなく、自分の最も自由な声・自分の本当の声をひらいていくため、というところが大きいです。
音大の先生からはよく『もっと自分の声を聴きなさい、脱力しなさい』と言われてました。私は何をするにも緊張しやすいところがあって、具体的にどうしたら脱力したり歌いながら自分の声を聴けるのかがわかりませんでした。それが自然に出来る人もいると思いますが、私の場合Uncovering the voiceでそのメソッドを意識的に実践することで、自分の声を聴くとはどういうことなのか、どうしたら脱力できるのかを学べました。
声楽では先生がお手本を示してくれますが、Uncovering the voiceでは先生のお手本はなく、自分で自分の声と向き合っていきます。ちょっと進むたびに平井先生が『どうでした?』と聞かれるのですが、それが大事なんですね。自分でやって、自分で見つけて気づいていく。『口先だけで歌ってたな』とか『お腹が今固かったな』と自分で気づくことで、心身ともに楽になる体験がたくさんありました。
またこれはUncovering the voiceのエクササイズを続けてきて最近気づいたことですが、私は生まれた時に口唇口蓋裂の症状がありました。その後、手術によって話すことも歌うことも明瞭に出来るようになったのですが、実は発声のための器官に硬さ・緊張がかなり残っていたのです。硬さや緊張を和らげることが出来るようになって初めて気づいた、まさに腑に落ちる体験でした」
Uncovering the voice での学びを得て、歌・声の捉え⽅は、以前とどんな変化がありましたか?
「以前は『自分一人で頑張んらなきゃ』という想いが強く、頑張って声を出してるところがありました。でも『どうしてこの人の声はこんなに素敵なんだろう?』という人で、頑張って歌ったり話したりしてる人っていないんですよね。
Uncovering the voiceでの学びを通して『私はただの楽器であって、何かが私を歌わせている』とも言えるような、委ねる感覚がわかってきました。声はどれだけ脱力できるか、どれだけ自分以外の存在に任せられるかが大事だと思っています。私の声は私だけが出しているわけじゃない。そう心身で理解して発する声は、自分にとって心地よいし、聞いて下さる方にとっても心地よいものに違いないと信じています」
声の学校のグループレッスンでは発声の練習の他にも、⾃分の価値観や⼦どもの頃夢中になっていたことを振り返ったりという時間もあるそうですが、そうした声の練習以外の取り組みは、どのように⻲⼭さんの声と⼈⽣に影響しましたか?
「子どもの頃のことを振り返る中で、親との関係性も思い出され『私、あの時ずいぶん傷ついたんだな』と改めて気づいたりすることがありました。ふだんは取り出すことの無い負の感情と向き合ったことで、よどんでいた澱が流れていくような、生きることが楽になる体験がありました。
自分にどんなダメ出しをしているか書き出すというワークもあって、面白かったです。どうしてダメだと思うのか?そのダメ出しは本当に必要なのか?というところから、ダメ出しする私も私と思うようになったことで『自分をゆるす』ことが出来るようになってきました。例えば私はアレルギーもアトピーもあるのですが、今はこれでいい、私は大丈夫だ、と思っています」
Uncovering the voiceでは声の響きを少しずつ丁寧に育てていくそうですが「早く響きのある声で歌いたい」とつい焦ってしまう人もいるのではないかと思います。響きを育てることに取り組んできた先輩として、そういった悩みがある方へ、亀山さんからメッセージはありますか?
「焦ることは悪いことではなく自然なことなので『今日の自分は焦っているな』と思うのはどうでしょうか。地道な練習はやったらやっただけのことはありますが、無理にやるものでもありません。『今日の私はこれでOK』という観点で、これが私のベストだと思いながら声を育てるのがいいと思います。自分で自分を育てるつもりで、ゆっくり。この『ゆっくり』が意外と早道だったりもします」
⻲⼭さんのこれからの夢や、Uncovering the voice での学びからやってみたいことを教えてください。
「Uncovering the voiceを学べばどんな歌でも歌えるようになると思うので、今後はいろいろなジャンルの歌に挑戦してみたいです。せっかくの学びを自分ひとりの幸せにするというより、何かお役に立てれば。これからも自分以外のものに任せるように、歌い続けていきたいです」
声の響きによって人を癒し、歌う喜びに生きる亀山さん。生まれ持った心身と、声を通して向き合い続けたその過程は気高い。自らをよしと書いて自由という言葉になるが、声を、歌を、響きを自由にするために必要なのは、発声のテクニックよりも自分の心と身体を、運命を真に受容することなのかもしれない。自由に、歌うように話す亀山さんと会って、そんなことを感じた。
平井久仁子から亀山幸子さんとのこと
亀山幸子さんと一緒にレッスンをするようになって、3年が経ちました。レッスンの時に彼女からフィードバックされる言葉に私は感嘆と喜びを感じます。彼女から紡ぎ出される言葉からUncovering the Voiceのエクササイズにどのように取り組まれているかが分かるからです。基礎になるシンプルなエクササイズがあるのですが、そのエクササイズに研究熱心な研究者のような視点で様々な方向から光を当てて練習をされます。そこには幸子さんの魅力でもある幼子のような好奇心が一緒にあるのです。そんな幸子さんの姿を拝見していると、シンプルなエクササイズをおざなりな練習にしてしまわずに、シンプルさゆえに見過ごされてしまう深遠さに気づく目線をお持ちなのだなと思います。
アントロポゾフィー歌唱療法士 平井久仁子