声が口から発せられた途端、壁に吸い込まれてしまって、まったく歌うには最悪な場所で歌わなければならない場合、あなたならどうしますか?
まず、どうしよう?!と、とても焦ってしまって、思いっきり大きな声を張り上げてしまうのではないでしょうか?
この反応が一般的だと思います。しかし、これをやってしまって、もっと響かなくなった経験をされたことはありませんか?
喉の調子をおかしくされたかもしれません。
どうにか歌い切ったけれど、はたして、聴衆にはどう聞こえていたのかも心配なところです。
今回は、豊かな響きとは、必ずしも大きな声とは限らないというテーマでお届けします。
シンギングセラピスト(歌唱療法士)平井久仁子です。
もう11月も今日で最後ですね。明日からは12月。
フィンランドのラウルコウルで学んでいた時、この時期からクリスマスの歌を学校や幼稚園、病院、老人ホームなどに歌いに行きました。
11月が始まると、通常の授業のカリキュラムが無くなり、クリスマスソングの練習をする授業のみになりました。
毎年、生徒がクリスマスソングのツアーを組む係になって、知人のつてを頼ったり、電話帳を片手に飛び込み営業をしたりして、歌う場所を決めていきます。
多い年は、1日に2件、3件と回ったり、車でヘルシンキやタンペレに泊まり込みで行きました。
歌うことになった会場も様々で、チャペルなど響きがとても良い場所もあれば、教室や体育館で歌う事もあり、その場合は、集音ボードが壁に張られているので、口から声が出た瞬間から、響きが吸い取られて、歌うには過酷な場所もありました。
どんな場所で歌うのかがわかるのは、行ってみた当日です。
リハーサルを行って、響かない場所であると、まず生徒である私たちは、暗い顔になります。
そして口々に、「今日の場所は最悪だ、全然響かない!」と言います。
すると、指揮をしている先生は、「優れた歌手は場所を選ばない。響かない場所でも響くように歌うのがプロの歌手。だからチャンスを与えられたと思って、歌いなさい」と言います。
先生からこう言われてしまったら、響かない場所だからと云い訳ができません。
それからというもの、響かない場所で歌う場合は、一緒に歌っている仲間と色々と工夫をしました。
自分一人だけの声に集中するのではなく、全員の声が溶けあうように、声を合わせて歌ったり、
それを意識して行う事で、皆の声が集まれば、一人で歌っている意識を越えて、皆の声の響きが相乗効果で広がっていきます。
そして、一人で歌う場合でも、みんなと歌う場合でもなのですが、響かない場所で歌うことになった時、大きな声で歌おうとしないことです。
どうしても響かない場所だと、不安になって、必要以上に大きな声を出そうとしてしまったり、がなるように歌ってしまいがちなのですが、それをすればするほど、ドツボにハマって、余計に響かなくなります。
響かない場所でこそ、最小限の力で歌える軽やかな声で歌う事。
そして、響きを自分の体の内側から集めて歌う事。
それから、その集めた響きを柔らかく広げます。
声を力で押し広げるのではなく、自分が立っている所から、会場の周囲に向かって自分の意識を広げます。
周囲の壁や天井を自分の手の平で触っているか、撫でているかぐらい、具体的にイメージします。
できればリハーサルの時にそれを行ってみてください。
リハーサルの時に充分に空間を認識して慣れておくと、そこが初めて訪れた場所でも、その空間が自分にとって馴染む場所になります。
そうすると、本番でも緊張しないですみます。
そして、目を閉じていても、自分の歌う場所の隅々までを意識できているか、確認してください。
意識が飛んでしまって、覚えていない場所、例えばそれが右上の天井部分だとしたら、もう一度そこに意識を向けて、空想の手の平で撫でてください。
そして、くまなく自分の意識が歌う場所全体に回るようになったら、歌っている最中にもそれを行ってください。
そして、お客さん全員を自分の意識のベールで包んでしまってください。
豊かな響きのある声は、必ずしも大きな声ではないということ、実践してみて下さったら幸いです。
[template id="282"]