歌っている人にとって様々な悩みがあると思います。
例えば、
- 高音になると喉が詰まって、声が出なくなる
- 息継ぎがうまくできなくて、呼吸がつらい
- 滑舌が悪くて、歌詞が聞こえないと言われる
- すぐに喉が痛くなってなってしまう。
以上のような悩みを持っていらっしゃる方は、
もしかしたら「舌」に問題があるのかもしれません。
「え?! 舌に問題があるの?」と思ったあなたに、
今回は「舌」をテーマにお伝えします。
口腔内における舌の位置
シンギングセラピスト(歌唱療法士)平井久仁子です。
あなたは、歌っている時に自分の舌について、
どれくらい意識をしていますか?
多くの人が、舌の存在をまったく無視して、
大切に扱っていないのではないでしょうか?
それが証拠に、自分の舌を自分で意識的に動かせる人が少ないのです。
「こんな風に舌を動かしてみてください。」と言われて、
その通りに動かしてみても、
自分が思った方向とは全然違った方向へ舌が動いてしまったり、
鏡を見ないと自分の舌がどの方向に動いているのか
全く意識できない人もいます。
今、この記事を読んでいる時のあなたの舌は、
口の中のどの位置にありますか?
確認してみてください。
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①上顎の歯の内側に舌の先端が付いていて、
舌全体が口蓋に沿っている。
②舌は上顎にも下顎にも付かずに、
中間に浮いたようにある。
③舌の先端は下顎の歯の付け根に付いていて、
舌全体も下顎に落ちている。
さて、何番でしたか?
正しい舌の位置は①番です。
もし②、③番のような位置にあなたの舌があったなら、
残念ながら舌はいつも緊張した状態に置かれています。
そして、本来あるべき舌の筋肉が低下しています。
朝晩の歯磨きの時に鏡に映る舌は、
全体のほんの一部です。
舌の先端だけが動いて、話したり、歌ったり、
食物を飲み込んでいるわけではありません。
本来は舌全体がきちんと動いて機能することが大切です。
しかし、現代の多くの人の舌は顎が動くようにしか
動かせなくなってきています。
食物をごっくんと飲み込む時には、
舌は上の口蓋にくっついていますね。
舌にこの筋肉があれば、
食物は正しく食道に入っていきます。
でもその筋肉が退化している場合は、
正しく食道に導かれないこともあるのです。
また、舌が下顎に下がっている場合には、
下顎に常に舌の重みがかかって、
口を閉じることができず、
口が常に開いている状況を作り出してしまいます。
そうすると、結果的に口呼吸になり、
口の中が乾燥して、
喉にも良い影響がありません。
舌は話す、歌うだけに限らず、
快適に生活する為にも重要な役目を担っています。
舌が正しく動かない時に起こる問題
歌う場合に話を戻します。
もう一つ、質問させてください。
先ほどの質問で、
①番の位置に舌があった人も
まだ安心できないかもしれません。
案外、これができない人がいらっしゃるのです。
舌全体(舌の先から真ん中、奥まで)を
上の口蓋の所に隙間なくぺったりと付けることができますか?
どこかの舌の部分が抵抗して浮いてしまったり、
舌の先が上の歯の所から離れて
喉の奥へ引き込まれようとしませんか?
舌全体の動きが阻害されて
動くべき所が動かない場合、
様々な問題が生じます。
◆発音が不明瞭に聞こえる
各々の子音、母音が
それなりの音に聞こえるばかりで、
真の音にはならない。
◆舌の動かない部分が邪魔をして、歌う時に必要な空気が余分に使われる
特に舌の後ろ、
舌の下側には意識を向けることすら
困難な人がいます。
鏡で自分の舌を確認すれば
自分の舌をコントロールできる人はいますが、
鏡を見ないで自分の意志で舌を動かしても
意志通りに動かすことができない人が多いです。
喘息の患者さんと歌唱療法を行う場合は、
舌のエクササイズを行います。
舌と呼吸は密接な結びつきがあるので、
肺が位置している胸の領域にアプローチして
療法を行うことも勿論重要ですが、
舌のエクササイズは重要です。
◆歌っていると喉が痛くなる人
正しく舌が動かないので、
無理な力を加えて、動かない舌を動かしています。
その結果、喉の筋肉や声帯にも無駄な疲労が蓄積されていきます。
舌を活性化させるエクササイズの方法
それでは、
正しい動きができなくなってしまっている舌を
再び活性化させて滑らかに動かせるようにするには、
どうしたら良いのでしょうか?
アンカヴァーリング・ザ・ヴォイス歌唱法では、
様々な舌のエクササイズがあります。
舌のどの部分が固くなっているか、
または弛緩しているかに合わせて、
使用する母音と子音を組み合わせます。
そして、舌の先端を口腔内の色々な部分に当てて歌います。
歌っている時に舌の先端は
必ずどこかに着いていますので、
自由を奪われて舌先は動くことができません。
ですから、必然的に
舌の真ん中部分と舌の根本部分が
動かされることになります。
舌の状況によっては、
口から舌を出して上唇に付けて歌ったり、
下唇に付けて歌うこともします。
世間一般の舌のエクササイズでは、
スプーンを舌に押し当てて
歌う練習などあると思いますが、
それではスプーンが外された時には、
残念ながら、また元の舌の位置に戻ってしまいます。
ずっとスプーンを押し当てたまま
人前で歌うことはできないのですから、
それでは正しいエクササイズにはなりません。
または、ストレッチ体操の様に、
舌を上に下に、右に左に動かしたり、
薄くしたり、太くしたりといった体操のような動作も
不十分に終わります。
歌の練習の場合は、
同時に歌われた音がないところで行われるエクササイズは、
唯単に器官的な舌の加工にしかならず、
舌全体が有機的に、舌先、真ん中、後ろへと
音の響きの流れの中にバランスを取り戻すことができません。
先ほど、喘息の患者さんに
舌のエクササイズを行うと述べましたが、
舌全体がしなやかに連動して動かなければ、
(特に舌の後方の領域が不活発で形成されていない場合)、
呼吸のプロセスの邪魔をしてしまいます。
まとめ
舌が歌うことにとって重要な役目をしていること、
お分かりいただけたでしょうか?
日々の練習に、
どうぞ「舌」のエクササイズを加えてみてください。
舌が自由に動くことができるようなれば、
今まで色々な事をやってみても改善されなかった悩みが
解決するかもしれません。
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