
先日、久しぶりに築地を訪れました。
市場が豊洲に移ってから、
築地はすっかり観光地の顔になっていて、
記憶の中の景色とはずいぶん違っていました。
にぎわいの中を抜けて、
少し歩いた先にある築地本願寺へ向かいました。
そこに入ると、空気がふっと変わります。
広い本堂の中は静かで、
ただ座っているだけで呼吸がゆっくりになるような場所でした。
ちょうど法話が始まる時間だったようで、
アナウンスとともに音楽が流れてきました。
サンスクリット語の仏教歌。
その瞬間、胸の奥がふっと動きました。
中高生の頃、毎朝歌っていた曲だったのです。
気づけば心の中で一緒に歌っていて、
教室の風景や、先生の声、友達の気配まで、
次々と立ち上がってきました。
歌って、不思議ですね。
一瞬で、時間も場所も越えてしまう。
そのときの空気や温もりまでも、
一緒に連れてきてくれるような感覚があります。
だからこそ、
日々の中に歌があることは、
とても豊かなことだと思うのです。
特別な日だけでなく、
家事をしながらふと鼻歌を歌うような、
そんなささやかな時間の中に。
「自分の歌に自信がないから」と、
きちんとした音源を聞かせたいと
おっしゃる親御さんもいますが、
子どもにとっては、CDよりも、
身近な人の声で歌われる歌のほうが、
ずっと深く届きます。
うまい、へた、というものさしは、
まだそこにはありません。
ただ「その人の声」が、
まっすぐに心に染み入っていきます。
そうして満たされた感覚は、消えることなく、
何年たっても、その人の中に残り続けるのだと思います。
今日、ふと口ずさむその歌が、
誰かの中に、そんな記憶として残っていくのかもしれません。
アトリエ・カンテレ 平井久仁子
