
「もっと声を出してください。」
歌を習ったことのある人なら、
一度はそんな言葉を聞いたことがあるかもしれません。
でも、
声を大きく出そうと頑張れば頑張るほど、
息が苦しくなった経験はありませんか。
実は、
響きは強い風に乗るのが得意ではありません。
そよ風に木の葉が揺れるような、
自然な流れの中でこそ、
響きはのびのびと育っていきます。
私たちはつい、
「呼吸は空気を出し入れすること」
だと思いがちです。
けれど、
声を探求していると、
呼吸は空気だけを運んでいるのではないことに気づきます。
呼吸は、
響きを運ぶ流れでもあるのです。
そして大切なのは、
響きの流れと呼吸の流れが一つになっていることです。
息を力で押し出そうとすると、
その流れは途切れ、響きも固くなってしまいます。
実は、
無理に息を吸おうとすることも同じです。
大きく吸わなければと頑張ると、
身体には余分な力が入り、
響きが自由に動ける空間が少なくなってしまいます。
響きが心地よく旅をするためには、
顎とおなかがやわらかく動いていることがとても大切です。
顎がゆるみ、
おなかが呼吸に合わせて自然に動いていると、
息は頑張らなくても出入りし始めます。
すると、
その流れに寄り添うように、
響きも身体の中を巡り始めます。
胸へ、お腹へ、背中へ、足元へ、そして頭へ。
響きは、
身体の中を自由に旅していくのです。
歌うということは、
息をどこかに溜めることでも、
コントロールすることではありません。
響きを無理に
運ぼうとすることでもありません。
呼吸の流れを整え、
響きが安心して旅のできる道を育てること。
それが、
歌うということの大切な土台なのだと、
私は感じています。
もし今日、
少しだけ時間があったら、
声を出す前に一度、
静かに呼吸を感じてみてください。
「しっかり吸おう」
「たくさん吐こう」と頑張る代わりに、
顎とおなかがやわらかく動いているかを感じてみる。
そして、
「響きは今、どこへ向かいたがっているだろう」
と耳を澄ませてみてください。
その瞬間、
あなたの身体の中で、
呼吸と響きが寄り添いながら旅を始めるかもしれません。
アトリエ・カンテレ 平井久仁子
