
「もっと響く声を出したい。」
そう願って、
私のところへレッスンに来られる方はたくさんいます。
でも、長い年月、声を探求する中で、
私には少しずつわかってきたことがあります。
響きは、
「出そう」とすることで生まれるものではありません。
響きを育てる第一歩は、
「聴くこと」です。
しかも、
聴くのは自分の声だけではありません。
私たちの声は、
自分ひとりの力だけで
生まれているのではないからです。
目には見えませんが、
私たちの周りには「響きの世界」があります。
空気があり、
空間があり、
静けさがあり、
共鳴があります。
私たちの声は、
その響きの世界と協働しながら生まれています。
ところが現代の私たちは、
その世界の存在を忘れてしまいました。
「どう出すか」
「どう聞かせるか」
「どう評価されるか」。
そんなことばかりに意識が向き、
まるで自分ひとりで声を
つくっているかのように声を出しています。
でも、
本当の響きは、
自分だけでつくり出すものではありません。
まず耳を澄ませること。
自分の声が、
空間の中でどのように響いているのか。
その響きが、
自分の身体にどのように返ってくるのか。
そして、
空間は何を返してくれているのか。
そうして耳を開いていくと、
響きは少しずつその姿を見せてくれます。
私は、
自分自身で聴ける耳を育てることを大切にしています。
誰かに「今の声は良かったですよ」と
教えてもらうことよりも、
自分で「あっ、この響きだ」と感じられること。
その小さな気づきが、
響きへの扉を開いてくれます。
その耳が育つと、その人は一生、
自分の声と響きの世界との対話を続けることができます。
私は、
その人の中に眠っている
「聴く耳」を育てる案内人でありたいと思っています。
響きの世界は、
遠いところにある特別な世界ではありません。
ほんの少し耳を澄ませるだけで、
いつも私たちのすぐそばにあり、
静かに語りかけてくれている世界なのです。
アトリエ・カンテレ 平井久仁子
